まるで海みたいなものだ

「まるで海みたいなものだ。」「え、海……。」「海が見たくなっちゃった。」「じゃあ見にいらっしゃいよ。」「そうだな、今から行って来ようか。だが……。」「なあに……。」「まだ暑いし、……。」「だから、海は涼しくていいんじゃありませんか。」「そうかしら……。一緒に行こうか。」「わたし?」睨むような甘えた眼付だった。「行けないことが分ってるものだから……。」「なぜだい。」「坊やをどうするの。」「ああ、子供か。」「嫌な人ね、白ばっくれて……。行っていらっしゃいよ。」「うむ……だが、赤ん坊の顔を見てるのもいいようだし……。」「まあー……。」 赤ん坊は余り好かないと云って、抱きかかえることも少い彼だった。その平素の不満がちらと敏子の眼に閃めくのを、彼はすぐに取上げてみた。「いや、僕は……赤ん坊の寝顔はひどく好きだよ。何だかこう、人間ばなれした清浄無垢って感じだからね。赤ん坊というものは、始終眠ってると実にいいんだけれど……。」「それじゃあ、人形も同じじゃありませんか。」「そうだ、生きた人形……そんなものが生れると素敵だがなあ。」「また。……だからあなたは駄目よ。」「へえー、駄目かなあ。」

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