捜査の対象

「だめだろうね……相当、こっぴどくやったつもりだが、洒々《しゃあしゃあ》としていた……それゃ、そうだろう。大池の弟とツルンでロッジに泊りこんだって、とがめられることはないはずだから」 そういうと、クルリと丸山捜査課長のほうへ向きかえた。「丸山さん、これゃ捜査の対象にならないね。二課はどうするか知らないが、われわれは、明日、引揚げます。書置一本に釣られて、こんな騒ぎをしたと思うと、おさまりかねるんだが、どうしようもないよ」 そこへ本庁の木村刑事が、婦人用のスーツ・ケースをさげてブラリと入ってきた。「部屋長さん、遅くなりました。ちょっと聞込みをしていたもんだから」「なんだい、そのスーツ・ケースは」「これですか。これは宇野久美子の遺留品です」「そんなもの、どこにあったんだ?」「大阪行、一二九列車の二等車の網棚の上に……二等車の乗客の中に、宇野久美子のファンがいた。宇野久美子がスーツ・ケースを提げて入って来たので、宇野久美子だと思いながら見ていると、このスーツ・ケースを網棚に放りあげて、前部の車室に行ったきり、大阪駅へ着いても帰って来ない。それで車掌に、これは東洋放送の宇野久美子のスーツ・ケースだから、東京へ転送してくださいと頼んだというのです」「開けてみたまえ」 木村はジッパーをひいて、スーツ・ケースの内容をさらけだした。灰銀のフラノのワンピースに緋裏《ひうら》のついた黒のモヘアのストール、パンプスの靴とナイロンの靴下が入っていた。「つまり、これは宇野久美子がアパートを出るときに着ていたものなんだな」「そうです。管理人の細君が確認しました」

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