搏たれたように急に口を噤んだ

 隆は、はっと眼の中を騒がせると、搏たれたように急に口を噤んだ。「そんなことより臨床訊問……このうえ私からなにを聞きだそうというのかしら。言うだけのことは言いつくしたつもりだけど」「あの連中がコソコソ言っているのを耳に挟んだのですが、あなたの供述書で逮捕状を請求したら、こんな不完全な内容で令状が出せるかと、令状係の判事に拒絶されたそうです。早急に死体があがる見込みがないので、伊東署の捜査本部を解散して、東京へ引揚げるといっていますから、訊問といっても、行掛り上、一応、形式をととのえるという程度のことではないでしょうか。そのほうはたいしたことはないでしょうが、私が心配しているのは、あなたのことなんです……心臓衰弱の気味だから、乗物に乗るのは、ちょっと無理です。傍にいてあげられればいいのですが、病院の仕事があるので、私は夕方までに東京へ帰らなくてはなりません……母はあなたをロッジへ入れないなんて、愚にもつかないことをいっていますが、気になさらないで、ロッジで今日一日静かにしていらして、いい頃にお帰りになるように」 言い憎そうに眼を伏せ、「おしつけがましいのですが、今朝のようなことはしないと約束していただきたいのです。さもないと、私は東京へ帰ることができません。それでは困るから……」 と、つぶやくようにいった。

 ロッジの二階の大池の部屋に運びあげられると、加藤主任がやってきて、そばの椅子に掛けた。「やっと人間らしい顔色になった。一時は、だめかと思ったんだが」 はじめからこんな調子でやってくれたら、逆らうことはなかったのだ。久美子は愛想よく微笑してみせた。「なんのつもりで、呼吸《いき》のとまるまで水にもぐったりするんだ? 人騒がせにもほどがある。なにをしようと勝手だが、捜査の邪魔をすることだけは、やめてもらいたいね」「はずみでやったことなんだけど……お手数をかけました」

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