非常に面喰つた様子

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 私にはこの時、藤枝が今日何だか非常に面喰つた様子をしているわけが、いささかながら判つて来たような気がしはじめた。 彼は第二の事件で犯人を男ときめたのじやなかろうか。その考えの上にいろいろな推理を積み重ねて来たのではないか。すると今度の事件で意外にも犯人は女性ということが推定されることになつたのでさすがの彼も全く当惑せざるを得ないのだろう。「つまりこういうことになるんだね。少くも今度の事件では直接女が仕事をしている。しかしてこの女は初江に大へん親しくしている女だ。そうすると犯人は、秋川家の内部にいる女ということになる。ねえ藤枝、ちよつと妙じやないか。君があれ程賞讃した犯人に似合わないね。この僕にだつて犯人の捜査範囲がだんだん判つて来たぜ」「うん、それだ。僕が考えていた犯人はそれほど愚かであるわけがないのだ。僕は今難問題にぶつかつたのだ。全く僕は弱つてるんだよ」 藤枝はほんとに弱り切つた顔でかたわらにおいてあつた紅茶を一口のんだ。「しかし小川、たつた一つ、犯人が女でなかつたとすると考え方もある。もつともこれによるとやはり、第二の事件とちよつとうまくしつくりしないが」「え? じや犯人は?」「あのおやじね。秋川駿三さ。あれが犯人だと仮定すれば、今日の事件の一応の説明はつくよ」「だつて君、おやじはずつとねていたはずだぜ」「君自身それが立証出来るか」 藤枝は儼然と私に云つた。「成程」

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