恐ろしい風呂場の惨劇

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 ここで、私は恐ろしい風呂場の惨劇を展開する前に読者に風呂場の位置を、はつきりとお伝えしたい。 玄関を上つて左手が笹田執事の室、反対に右側が応接間であることは既述の通り。応接間のすぐさきがピヤノの部屋で、そのまたさきに、ガラス戸の入口がある。 玄関からまつすぐ廊下があり、やや右に曲つてはいるがそのつきあたりが二階へ通ずる階段で、それまでに左手すなわち笹田執事の室の隣に一つ部屋があり、次が小さな物置(これには廊下を掃除する箒木などがつめこんである)その次が便所でその奥に化粧室があつてそれに隣《とな》つて浴場がある。 風呂場へ通るには化粧部屋のドアをあけて一旦化粧室に入りそこから更に風呂場にゆくことになるのだ。 たびたび申す通り、私は図を描くのは苦手なのだが、不正確ながらも大体の見取図を書くと丁度こんな風になる。 私が、仆れかかつているひろ子にぶつかつたのは、●(黒点)で示してある所で、階段の下、便所の前である。[#秋川家の部屋の配置図(fig1799_03.png)入る] ひろ子の言葉をきいた時、咄嗟のことなので、私には『風呂場の花嫁』がどんな恐ろしい意味を表わすのかちよつと解らなかつた。 林田は早くもその意味を察したと見え、いきなり化粧室のドアから中におどり込んだ。此の戸は半ば開かれていた。私もひろ子をさだ子と伊達に托すと、つづいて林田のあとからそこにとび込んだのである。 化粧室に入るとすぐ目に入つたのは、奥の壁にはめこみになつている等身大の立派な姿見[#「姿見」は底本では「姿身」]だつた。その他に色々な化粧品がおかれてあつたが、そんなものは今|記《しる》している限りではない。注意すべきはただ一つ壁のところにさつきまで初江が着ていた着物がかかつている、着物の主は今正しく浴場にいるにちがいないのだ。

— posted by id at 03:11 pm  

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